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大阪高等裁判所 平成5年(行コ)12号 判決 1996年3月30日

京都府宇治市大久保町井の尻六〇番地の三

控訴人

宇治税務署長 高橋巌

右指定代理人

山口芳子

金政真人

山本進弌

石井真一郎

三重県鈴鹿市道伯町二一五〇番地六七

被控訴人

藤村勉

右訴訟代理人弁護士

岩佐英夫

井関佳法

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  事案の概要、争点とその主張は、原判決の該当欄に記載のとおりである(二頁八行目~五頁一〇行目)。

本判決では、昭和六三年法律第一〇七号による廃止前の物品税法(原判決でいう「旧物品税法」)を、単に「物品税法」と表記する。

被控訴人の主張の要点は、次のとおりである。

支那事変特別税法(昭和一三年法律第五一号)三八条第二種乙類二〇号には「乗用自動車」と規定され、同法施行規則(昭和一三年勅令第二〇一号)の課税物品表第二種乙類二〇号に、「乗用自動車但シ普通乗用自動車ニシテ輪距二百八十九糎ヲ超ユルモノニ限ル」との規定があるところを素直に読めば、乗用自動車と普通乗用自動車は別の概念であり、普通乗用自動車以外の乗用自動車という範疇が存在すると解さざるを得ない。そして、「普通乗用自動車ニシテ輪距二百八十九糎ヲ超ユルモノニ限ル」との表現は、「普通」という概念が、大きさの範疇とは別のものであることを示している。

物品税法の課税物品表の第二種の七では、普通乗用自動車、小型普通乗用四輪自動車、軽普通乗用四輪自動車、という用語が用いられ、いずれの大きさの乗用者にも「普通」の用語が使用されており、ここでの「普通」の意味も、車の大きさとは関係がなく使用されていることが明らかである。物品税法の歴史においては、「高級普通乗用自動車」という使われ方をしたこともあり、高級車であっても「普通」ということになり、「普通」という用語が、高級、中級、低級という分類とも別の概念であることは明らかである。

したがって、ここでの「普通」とは、車の用途に着目した概念となる。国税庁消費税課長今泉一郎監修『逐条解説物品税法(改訂版)』一三五頁(昭和三四年。甲第一七号証)が、「普通」というのは、バスやトラックあるいは寝台車等の特殊車を除外した乗用車を意味する趣旨である旨解説しているのも、このことを裏付ける。

結局、「普通乗用自動車」の「普通」とは、通常人が利用し、かつ、通常人が「乗用」自動車として期待する用途、機能(快適さも含め)を備えた自動車に関するものを意味する。病人を運ぶことを目的とする救急車や、寝台車はこれに当たらない。通常の運転免許のほかに、特別のライセンスと技術を持った者のみが運転でき、通常の「乗用」自動車としての機能、快適さを欠いたフォーミュラータイプの自動車が、「普通乗用」自動車に該当するものでないことは明らかである。本件各自動車は、このタイプのものであり、物品税法にいう「普通乗用自動車」ではない。

これを積極に解することを前提とした本件各処分は違法である。

三  当裁判所は、本件各自動車は、物品税法課税物品表第二種の七の2にいう「小型普通乗用自動車」に当たるものと解する。その理由は次のとおりである

1  まず、物品税法の沿革をみる。

乗用自動車に課税されるようになったのは、支那事変特別税法(昭和一三年法律第五一号)においてであり、三八条第二種乙類二〇号に「乗用自動車」と掲名されたところに始まる。同法施行規則(昭和一三年勅令第二〇一号)の課税物品表第二種乙類二〇号には「乗用自動車但シ普通乗用自動車ニシテ輪距二百八十九糎ヲ超ユルモノニ限ル」と規定されていた。

その後支那事変特別税法は廃止され、物品税法(昭和一五年法律第四〇号。いわゆる旧々物品税法)が制定され、同法施行規則(昭和一五年勅令第一五〇号)の課税物品第二種甲類一四号に、「乗用自動車但シ普通乗用自動車ニシテ輪距二百八十九糎を超ユルモノニ限ル」と規定された。

酒税法等の一部を改正する法律(昭和二四年法律第四三号)の施行に伴う物品税法施行規則の改正(昭和二四年政令第八三号)で、「乗用自動車(普通乗用自動車)」のほかに、新たに第一種七二号として「小型乗用自動車、乗用自動三輪車及び自動自転車」が掲名された。

昭和二六年法律第七七号により、従来物品税法施行規則で課税対象とすべき乗用自動車の範囲が規定されていたのを、物品税法の課税物件表第一種丙類三二号に「普通乗用自動車但シ第五十二号及第六十四号ニ掲グルモノヲ除ク」、第一種丁類五二号に「小型普通乗用四輪自動車」、第一種戊類六四号に「乗用三輪自動車及自動自転車」と掲名するようになった。

昭和二九年法律第第四六号により、新たに高級普通乗用自動車が掲名された。

昭和三七年法律第第四八号により物品税法が全面改正となり(いわゆる旧物品税法(本判決でいう「物品税法」)の制定)、「普通乗用自動車」とは、第二種一二号の小型普通乗用四輪自動車と、四三号の乗用三輪自動車及び二輪自動車を除く旨の規定となった。

昭和四八年法律第二二号により、新規課税品目として物品税法別表の七の1にキャンピングカー及び小型キャンピングトレーラーが、別表の七の4に雪上スクーターが掲名された。

昭和五六年法律第一四号により、乗用自動車は、普通乗用自動車、小型普通乗用四輪自動車、軽普通乗用四輪自動車、大型乗用三輪自動車、小型乗用三輪自動車に分類されて課税される旨改正となった。

2  物品税法の課税物品表における「普通乗用自動車」との用語には、自動車について二つの限定が付されている。一つは「乗用」であり、もう一つは「普通」である。第一の「乗用」自動車とは、通常、「貨物」自動車に対比されることからも明らかなように、人が乗車し、主として人が移動するための用途に使用することを主目的とするものを意味し、貨物の運送に使用する場合などの他の用途を主目的とするものは除外することを意味するものと理解することができる。次に、第二の「普通」とは、「乗用自動車」を更に限定する定義であるが、その意味は自明なものではないので、前記法律等の制定及び改正の経緯からその意味を探ってみる必要があるが、「普通乗用自動車」の用語は当初から存し、一貫して使用されてきているところである。そのうち、最も簡明な支那事変特別税法の規定によれば、乗用車のうち「普通乗用自動車」のみを課税対象とするというのであり、「普通」という定義規定を設けることにより、「特殊な」乗用自動車以外の乗用自動車だけを課税対象とする趣旨にあったものと解される。

すなわち、普通というのは、特殊な乗用車を除くという意味に解されるのであり、一人又はせいぜい数人が乗車して移動するための用途に使用することを目的とするものに限られ、例えば、多量の人員を移動させるための自動車であるバスは除外されるものと解することができる。

3  本件各自動車の性状、機能、用途等は原判決認定のとおりである(一〇頁九行目~一四頁四行目)。この認定によれば、本件各自動車はフォーミュラーカーであって、専ら自動車レースに使用されるのを目的としているということができる。

しかしながら、自動車レースは、人の乗用を前提にし、走行の速さなどの運転テクニックを競う競技であり、自動車における人の乗用技術を極限にまで高めて自動車を走行させるものにほかならない。すなわち、本件各自動車は、自動車レースに使用されるものであるが、その前提として、一人の人間(運転者)の移動が行われるものであり、換言すれば、人が乗車することによって行われる自動車の移動を競うために使用されるものである。本件各自動車を操縦するには高度の技術の習熟を要し、通常の運転免許を有しているにすぎない者は乗用することもできないが、このことは、乗用するための技術において高度のものが要求されていることを意味するにすぎない。また、本件各自動車は一般道路における走行が法令上許容されていないし、公道の走行を許容されている乗用自動車とは異なる仕様となっているが、これも、自動車を「乗用」に使用する際における走行高速度などの運転テクニックを極度に高めて走行させるために製造された結果にすぎない。

例えば、救急車は、急病人を救うという、乗用とは別目的の用途のために使用されることから、普通乗用自動車の範疇から除外されるのであるが、これは、本件各自動車のように、乗用の技術そのものを極限にまで高めることを目的としているのとは、質的に異なる用途を目的としている結果の解釈に基づくものである。

そうすると、本件各自動車は、人が乗車することを目的とするものであって、乗用という用途以外の特殊な用途に供されるものではないと解すべきであり、物品税法の課税物品表第二種の七にいう「普通乗用自動車」に該当するものというべきである。そして、本件各自動車は、長さが三八五センチメートル、幅が一四九センチメートル、気筒容積が一、六〇〇立方センメートル、後輪駆動式、ガソリンエンジンを原動力とするものであることは当事者間に争いがないので、物品税法の課税物品表第二種の七の2の「小型普通乗用四輪自動車」(そこに規定されている「その他のもののうち、長さが四七〇センチメートル以下、幅が一七〇センチメートル以下で気筒容量が二、〇〇〇立方センチメートル、以下のもの」で、七の4に掲げる以外のもの)に該当することになる。

被控訴人は、覆面パトロールかーが物品税法で課税されていなかったことをもって、覆面パトロールカーは用途が「普通」でないことになると主張し、したがって、本件各自動車も同様であるとする。控訴人は、物品税法課税物品表第二種の七にいう「普通」とは、「所定の大きさ」を有するものであると主張するところから、覆面パトロールカーも、定義上は「普通」乗用自動車に当たるが、公益性、公共性にかんがみて、物品税法による課税は行われていなかったと述べており、被控訴人は、控訴人のこの解釈を論難している。しかしながら、前記のように、「普通」とは、特殊なもの以外と解釈できるのであって、当裁判所の解釈は、控訴人の解釈とは前提を異にしており、また、本件各自動車が物品税法上の普通乗用自動車に当たることは、右に示したとおりであるから、被控訴人の右主張は、前提を欠く。覆面パトロールカーの「普通」乗用自動車該当性と、本件各自動車の「普通」乗用自動車該当性とは別個の問題である。

四  したがって、本件各処分には被控訴人主張の違法はない。被控訴人の請求を認容した原判決を取り消して右請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、八九条を適用して、主文とおり判決する。

(裁判長裁判官 潮久郎 裁判官 山﨑杲 裁判官 塩月秀平)

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